完全歩合制の甲子園の売り子たち

「夏の甲子園」が終わりました。

日大三高のみごとな優勝でしたが、最後まであきらめない光星学院ナインの姿勢は被災された方たちだけでなく、多くの国民に勇気を与えてくれたような気がします。

今年の決勝戦は節電対策もあり、初めて朝9:30のプレーボールになりました。 昨日から気温も下がっており、天気も雲があったため、真夏の決勝戦という感じはあまりしませんでした。 かんかん照りの太陽のもと、真っ黒に日焼けした顔から汗をほとばしらせながら戦う姿をどうしてもイメージしてしまいます。 スタンドには「かち割り(氷)」を売り歩く売り子の姿がやはり似合うのが夏の甲子園ではないでしょうか。

実は、30年以上前に私は甲子園球場で売り子のアルバイトをしていたことがあります。 プロ野球だけでなく、もちろん高校野球のときも甲子園へ行っていました。 そんな売り子の観点からすると、今日の決初戦は「ビジネス」としてはあまりよくなかったような感じがします。

例年ですと、決勝戦は午後1時に開始されていました。早めに球場へ来てお昼ご飯を食べる人もいて、お弁当やサンドイッチも売れます。 午後からということで、気温も上昇し、ビールやアイスクリーム、ジュース、かち割りもよく出ます。

試合が早く始り、午前中で終わったしまっては売上を上げるチャンスはあまりなかったでしょう。 歩合制で稼ぐ売り子は、「市場の変化」に敏感です。その日の天気や気温で、売れる・売れないかがわかったりします。 また、高校野球とプロ野球では「効率の違い」にも気づきます。

高校野球は朝から夕方まで3試合から4試合あるので、売上が上がりそうな感じがします。 毎試合、アルプス席の応援団が新たに入れ替わるので、「需要」が出てきそうです。

ところが意外にも、プロ野球のナイターの方が売上を稼ぎやすいのです。 高校野球の応援団は、「応援する」ことが目的ですし、試合時間も短いので、それほど「購買力」はありません。

一方プロ野球のお客さまは娯楽目的で来場されています。夕食も済んでいないケースも多いので、食べ物、飲み物はよく売れるのです。

また、球場が満員になったら売上が増えそうですが、逆に売り子が移動するのに時間がかかってしまい、数量が伸びなくなってしまいます。 いちいち自分の売店基地に戻って商品を補充していたら機会損失になるので、2~3倍の商品を補充してスタンド近くの別のお店の売店に頼んで、商品を一時置かせてもらうなどの知恵を働かせたりもしました。

ある一定の入場者数を超えると、お客さまは自分で売店に食べものや飲み物を買いに行くことも困難になってきます。

そんなときには、スタンドのお客さまの様子をゆっくり確認しながら、動いていきます。「ジュースにサンドイッチ、いかがですか~」そう声を出していると、もじもじとされているお客さまを発見します。そして、視線を合わせるようにすると、小さく手を上げられ、購入の意思表示をされるのです。

「買いたい」と思ってはいても、決断できなかったり、言い出せずにいるお客さまもいるはずです。営業マンとして、いかに買いやすい環境をお客さまに提供できるかは、重要な能力です。

売り子をしていたのは16、7歳の頃でしたが、今思うと営業のためのヒントをたくさん吸収できました。

今度、野球観戦に行かれたときには、少し違う角度で売り子を観察されてみればいかがでしょうか。きっと新たな発見がありますよ。

2011.08.20