部下にメモを取らせるな
「記憶で仕事をするな、記録でしろ」
社会人なら誰しも、一度や二度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
あいまいさを残したまま仕事をすすめると、トラブル発生のリスクが高くなります。
”言った、言わない”、”そういう意味ではない”、”聞き間違えてました”、”指示しただろ”、こういういざこざがあると、上司は冒頭の言葉を部下に発します。
お客さまとの約束、上司からの指示、同僚からの依頼等々、聞いたことを100%こなしていれば問題はありません。しかし、完璧にすべてのことをやれる人はそういるものではありません。
忙しいときには、いくつもの用件を同時進行させたりしますから、抜けが出る確率も高くなってしまいます。
基本的に人は忘れる生きものです。後からの情報が、どんどん脳に上書きされていきますので、処理すべきことが増える分、仕事のミスも増加する傾向があります。
こういうリスクを未然に防ぐために、あいまいな記憶に頼るのではなく、キチンとメモをとって”記録”で仕事をするようにしなければならないのです。
ここで大切なのは、自分が書きとめたメモが”正しいとは限らない”ということを理解しておくことです。相手の言ったことを聞きもらすこともありますし、勘違いしてしまうこともあります。また、相手が言い間違うこともあり得るのです。
その場で聞いたことを復唱して、相手にも確認してもらうことをすぐにすれば、互いの行き違いを減らせます。さらに、そのことを文書にしてメールなどを使い、情報を共有するようにしておけばより確実です。
そのためにも、部下にしっかりと、メモをとることを徹底しなければなりません。
以上
・・・で終わると、
「部下にメモを取らせるな」というタイトルでなく、「部下にメモを取らせろ」がふさわしくなってしまいます。
まだ、続きがあります。
実は、私がメーカーで営業マネージャーをしていたとき、 「部下にメモを取らせない方がよい」と実感した出来事があったのです。
その頃、6名の営業マンがいたのですが、彼らが書く「営業日報」ではせっかくの営業活動が伝わってこないので、ヒアリング形式で聞き出すことにしていました。
一日の営業活動を順序立てて口頭で報告してもらい、私がメモをとっていました。聞き出す側は大変なパワーが必要ですが、具体的なアドバイスも出来ますし、クレームも大きくなる前に対処しやすくなりました。
そんな中、二人の営業マンのヒアリング時間が他の4人にくらべて長くかかりすぎることに気づきました。
早くすすむ4人の場合は、こちらかの問いかけに対して、ほぼ即答で応えてくれるので、テンポよく進行できました。ところが、時間のかかる二人は、一つの問いかけに対して時間がかかり、なかなか前に進みません。
その原因はこうでした。
私に報告するために、一日の出来事を手帳へ詳細に書いていました。ところが、どこに書いたのかをよく覚えていないため、探すのに時間がかかっていたのです。また、手帳に書くことで、頭の中の”記録”も薄れてしまい、メモがないと、何もわからない状態になっていました。
そこで、ある日二人にこう言いました。
「明日から、報告の際に手帳をみることは一切禁止する」
約束どおり、翌日からは手帳なしの報告です。まず営業訪問した順番を頭の中で思い出します。そして、何の用件で、誰に会って、どんな話をしたのか、そのときの反応は?、そして次の課題は・・・ということを頭の中に描きながら言葉にしていきます。
頼るものは自分の頭しかありません。最初はぎこちなかったものの、慣れるにしたがって頭の中が整理されていき、私の問いかけにもテンポよく、応えられるようになっていきました。
やはり、頭の中で考えることは、大変重要なことです。営業マンですから、お客さまから予期せぬ質問や問いかけを受けることもあります。そんなときに、テキパキと受け答えをしてもらえると、お客さまからの信頼も増します。そんなトレーニングは日常的にしておいた方がいいのです。
基本的にはメモ(記録)をとって仕事をすることは大事なことですし、そうするべきです。
しかし、人によっては、「メモ記録依存症」に陥ることもあるのです。
せっかくの人の能力を衰えさせないように、 部下の特性にあった育成を心がけてください。
2011.11.06